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『ぼくがかんがえたさいきょうのCRM』は、だいたい失敗する——元“Salesforceの中の人”が伝授する「導入の失敗を避ける8つのポイント」

2021.07.05 CRM DX Salesforce 失敗事例

 Salesforceといえば、多くの企業においてCRM(Customer Relationship Management)・SFA(Sales Force Automation:営業支援システム)ツールのデファクトスタンダードとして広く使われていることで知られている。


 しかし、うまく使いこなせれば極めて大きな効果を発揮する半面、その導入や運用は一筋縄ではいかず、ライセンスコストも決して安くないことから、「流行っている」「他社も使っている」という軽い気持ちで手を出すと痛い目に遭うこともしばしばだ。実際、実装や運用でつまずいて、せっかくの機能を使いこなせていない企業も少なくないという。


失敗する導入のパターンとはどんなものなのか、導入に失敗しないためにはどのような準備が必要なのか——。AnityA(アニティア)がSalesforceの導入・運用に詳しいエキスパートを集めて開催したイベントで、この問題の解決策を探った。


 イベントの前半では、元セールスフォース・ドットコムの営業部長として数多くのSalesforce導入・運用プロジェクトを間近で見てきた株式会社digsasのFounder&CEO 石井友規氏が登壇し、導入失敗の具体的なパターンや、導入を成功させるために欠かせないポイントについて解説した。


●そもそも「CRM」とは一体何なのか?


 石井氏は、Salesforceに限らずCRMの導入プロジェクトは得てして炎上しやすく、「極めて可燃性が高い」と話す。そうした事態を回避し、CRMの導入・活用をスムーズに進めるためには、一般的に世に流布している「正攻法のパターン」や「理想的な成功例」だけでなく、「失敗例やアンチパターンから学ぶことも極めて有効」というのが同氏の考えだ。


 また、それ以前に、そもそもCRMそのものについて誤った理解や解釈がなされているケースも多く、まずはこの誤解を解いてCRMの本質をきちんと理解するところから始める必要があると同氏は説く。


 「CRMのことを『顧客管理システム』だと思い込んでいる方が多いようですが、CRMはそもそも“Customer Relationship Management”の略称であり、つまり『顧客との関係を管理するための取り組み全般』を指します。ここには本来、システムの概念は含まれておらず、従って『CRMはシステムではない』ことをまずは理解する必要があります」(石井氏)


 CRMという言葉が世に広まったのは、2001年に出版されたアクセンチュアの書籍『CRM—顧客はそこにいる』(村山 徹、三谷 宏治:著 東洋経済新報社:刊)がきっかけだと言われている。ここでは消費者の嗜好の多様化や消費行動の変化を背景に、産業革命以降の「大量生産・大量消費」のビジネスモデルが転換点を迎え、企業の販売・マーケティング戦略は「マスからOne to One」への変化が求められているとしている。


 こうしたCRMの概念は決して新しいものではない。例えば、産業革命以前は、顧客一人ひとりを大切にして、売れる分だけを生産していた。これが大量生産・大量消費の時代になり、商圏が一気に広がった結果、顧客一人ひとりの顔が消えてしまい、マスビジネスが取って代わることになった。つまり、CRMとは「昔は大切にされていたものの、産業革命の波に飲まれていったんは消えてしまった概念やコンセプトを、現代に蘇らせるための取り組み」と言うこともできる。


●CRMのプロジェクトはなぜ炎上しやすいのか?


 では、このCRMの概念を具現化するためのシステム、いわゆる「CRMシステム」はどのような特徴を持っているものなのか。これは、他のジャンルのシステムとの対比で見てみると理解しやすい。


 例えば会計システムは、仕訳データを入力すればそれが内部で総勘定元帳に反映され、試算表が作られ、そして最終的には決算書が出力される。勤怠管理システムであれば、タイムカードの打刻データが入力されるとそれが勤怠データとして管理・処理され、最終的にはそれを基に給与計算が行われる。このように一般的な業務システムでは「システムへの入力」と「システムからの出力」が明確に定義されている。


 一方CRMは、どんな情報を入力すればどんな出力が得られるのかというシステムのインプット/アウトプットに関する明確な定義が存在せず、極めて曖昧だ。その一方で、その概念が指し示す範囲は前項で述べたように極めて広く、ユーザーの期待値が極めて大きいため、各ステークホルダーの期待や思惑が大きく膨らむことになる。


 「このようにCRMという概念はとても幅広く、よってユーザーの期待が膨らみプロジェクトが大規模化しやすい半面、システムのインプット/アウトプットがとてもファジーで明確化しにくいという『二面性』を持つが故に、期待と現実のギャップが広がってプロジェクトが炎上しやすいと言えます」(石井氏)


 システムの対象範囲が極めて広いにも関わらず、システム要件は曖昧となれば、自ずとプロジェクトの難易度は高まり、同時に失敗する確率が上がるのは目に見えている。事実、日経BPがITシステムの種類別にプロジェクトの成功率を調査したところ、「CRMとSFA(Sales Force Automation:営業支援システム)は数ある業務システムの中でも最も成功率が低い」という結果が出たという。


●MAもSFAもカスタマーサポートもCRMを構成する要素の1つ


 CRMシステムは入出力だけでなく、「対象とする業務の範囲」もしばしば曖昧に扱われる。


 CRMが登場する以前から営業の現場で広く使われてきたシステムに「販売管理システム」がある。見積もりから契約、売上集計、請求、回収という一連の販売プロセスを網羅し、最終的には出力データを会計データへ流していく。しかし、このシステムの出発点である見積もりのプロセスの前にも、潜在顧客の発掘や見込み顧客へのアプローチなど、実際にはさまざまな顧客接点が存在する。


 この「見積もり以前にも、顧客接点は多数存在していたではないか!」という気付きが、CRMの出発点の1つとなっている。実際には潜在顧客や見込み顧客へのアプローチは、現在では「MA(Marketing Automation)」と呼ばれるシステムの範疇とされ、またMAが抽出した見込み顧客に対する営業活動を支援するシステムとしてはSFAが使われる。さらには、商品・サービスを販売した後の問い合わせ対応やアフターサポートを支援するシステムとして「カスタマーサポート」のシステムが用いられる。


 これらのシステムをCRMシステムと区別して論じることもあるが、石井氏によれば、こうした捉え方は誤りだという。


 「SFAやMA、カスタマーサポートは、あくまでも『CRMの一部』として位置付けられています。そのためCRMという言葉が指し示す範囲が人によってたびたび異なり、混乱を生む原因になっています。


 また『CRMとSFAのシステムを入れたい』『コールセンターのシステムとCRMを連携させたい』と言う人もいますが、これも誤りです。SFAもカスタマーサポートもあくまでもCRMの構成要素の1つに位置付けられるものであり、CRMと対比されるものではありません」(石井氏)

 さらにCRMの取り組みは、最終ゴールまで一足飛びに到達することはできず、段階的に進めていくものだと石井氏は言う。具体的には、まず「顧客接点の資産とする顧客台帳のデータベースを整備するところ」から始まり、次に「そこに溜めたデータを分析/可視化する段階」へと進み、分析結果が出たら「それを基に次の戦略を立てて実行」に移し、その結果をまた分析/可視化する——という、一連のプロセスを回していく。

 こうした一連のステップを理解せずに、いたずらに即効性を求めてシステムを導入すると、大抵の場合は失敗に終わるという。


●CRM導入プロジェクトの「導入前あるある」


 では、具体的にはどのような失敗ケースが多いのだろうか。石井氏は、これまで数多くのSalesforce導入プロジェクトを間近で見てきた自身の経験を踏まえた上で、CRM導入時によく見られる代表的な失敗パターンを2つ挙げる。


 まず1つ目は、「トップの意向」で導入をトップダウンで進めるケースだ。経営トップがCRMに対して深く理解しないまま導入の号令をかけ、その意を受けたマネジャー層もまたCRMを深く理解しないまま「とにかくデータをたくさん溜めればいいらしい。では日報はもちろん、案件の詳細情報や電話の内容まで、片っ端から登録することにしよう」と安易にシステムの仕様を決めてしまう。


 その結果、出来上がったCRMシステムは、現場に膨大な量のデータ入力を強いる半面、効果やアウトプットが曖昧で分かりにくいという「最悪のパターン」を辿ることになる。そんなシステムが現場に定着するわけもなく、あっという間に形骸化するであろうことは火を見るよりも明らかだ。


「“導入を決める側”と“現場で使う側”との間に距離があったり、コミュニケーションが少なかったりすると、なかなか現場が『便利だから使い続けよう』と実感するものにはならない。その結果、導入がスムーズに進まないということになります」(石井氏)

 また「営業が効率化されるらしい」「クレームが減るらしい」「営業資料を作らなくてもよくなるらしい」と、CRMに対してまるで「魔法の杖」であるかのような過度な期待を抱いてしまうケースも極めて多い。しかし実際にはそのようなことはなく、大抵の場合期待は見事に裏切られることになる。


 「取り組み始めたばかりの段階のCRMは、単に顧客データを集めるだけの箱しか存在しません。そんなものがいきなり魔法のように、あらゆる業務課題を次から次へと解決できるわけがありません。CRMシステムは単なるツールに過ぎず、その真価は使う人によって決まります。従って、過度な期待は失敗の始まりだと肝に銘じるべきです」(石井氏)


●CRM導入プロジェクトの「構築中あるある」


 次にCRMの構築段階においてありがちな失敗ケースとして、同氏は「『ぼくがかんがえたさいきょうのCRM』の大量発生」を挙げる。


 「よく見られるのが、トップセールスマンにヒアリングしたところ『こんなイレギュラーケースもサポートできないシステムなんて使い物にならない!』と言われたり、情報システム部門の担当者から『現場に聞いたらこんな項目も作りたいと言っている』と言われるケースです。こうしてさまざまな立場の人たちの要望を聞いているうちに、どんどん『ぼくがかんがえたさいきょうのCRM』が大量発生してきて、収集がつかなくなってくるのです」(石井氏)


 しかし、当然のことながら、現場の細かな要望をすべて網羅するためには膨大な時間やコストが掛かり、費用対効果の面でも疑問が残ることが多い。そこで石井氏が勧めるのが、そうした要望が「顧客が求めていること」なのか、それとも「自社の業務の都合」なのかを見極めることだ。


 「自分たちの業務の都合を優先させた結果、知らず知らずのうちにお客様やフロント部門を振り回して迷惑を掛けてしまっているケースは意外と多く見られます。従ってCRMに対する要望が自社の業務都合なのか、それともお客様の要望なのかを“ファクトに基づいてきちんと切り分ける”必要があります」(石井氏)


 また、現場の一担当者が思い付きで考えた「ぼくがかんがえたさいきょうのCRM」と、世界中で既に豊富な実績があり、毎年何千億円も投資して設計・開発されているSaaSアプリケーションの標準機能のどちらが優れており、どちらを優先すべきかを冷静に判断すれば、自ずと結論は出るはずだ。事実、石井氏のこれまでの経験を踏まえても「ほとんどのケースでは標準機能の方が優れている」(石井氏)という。

 さらにもう1つ大事なポイントとして同氏が挙げるのが、理想を追い求め過ぎることなく、現実的で定着しやすいCRMを目指すことだ。過度にがんばらなくても達成できる「ハードルの低い目標」を設定し、かつ現場にデータ入力などの協力を求める代わりに、既存の作業を廃止するといった「見返り」を与えることが大事だという。


 「最初は、『志を高く持ちすぎる』よりは、『ちょっとショボい』ぐらいがちょうどいいんです。『すごいこと』は、導入がうまくいってから考えればいい」(石井氏)


●CRM導入プロジェクトの「活用開始あるある」


 こうして無事にCRMの構築を終え、システムの活用を始めた後も、多くの場合は課題が山積している。


 中でも最も多く見られるのが、「現場がなかなかデータを入力してくれない」というものだ。この課題を解決するために「入力を徹底させよう!」「数字を基に指導しよう!」「データが汚いのは怠慢である!」「そもそも活用しない現場が悪い!」という方針を上から強制的にトップダウンで下すことも多いが、こうしたやり方はかえって逆効果になりかねないと石井氏は言う。


 「そもそも業務現場で、喜んでシステムにデータを入力する人なんているわけがありません。従って設計段階から極力、“入力をさぼれる仕様”にしておかないと、決してシステムが現場に定着することはありません」(石井氏)

 また、もう1つありがちなパターンが、「情報へアクセスするための権限設定を細かく定義しすぎた結果、情報の活用が阻害されてしまう」というものだ。多くの日本企業では、ユーザーの所属部門や職位ごとにCRMシステムの各データに対するアクセス権限を細かく設定する傾向にあるが、石井氏に言わせればこれは「まったく本末転倒」だという。


 「CRMの醍醐味は、お客様を起点としたあらゆるデータを集約して、オープンで自由にアクセスして利活用することにあります。当初からデータへのアクセスを権限設定でがちがちに縛ってしまうやり方は、CRM本来の意義に真っ向から反しており、もはやCRMをやる意味がありません。権限設定も確かに大事ですが、まずはCRMの本来の意義と目的をきちんと理解した上で、その後で権限設定を考えるべきです。この順番を逆にするべきではありません」(石井氏)

●CRM導入時におさえておくべき「8つのポイント」


 最後に石井氏は、CRM導入時に考えるべきことのポイントを“建前”と“本音”に分けて提示した。まず建前としては、セールスフォース・ドットコム社が提唱するSFA/CRM活用支援フレームワークである「7ドメイン」が大いに参考になるという。これはSalesforceを有効活用する上で効果的なフレームワークを、以下の7つのドメインに分けて提供するというもの。


・ビジョンと戦略
・評価指標
・ロードマップ
・経営層の賛同と運用体制
・定着化
・業務プロセス
・システム連携・データ品質

 このフレームワークは極めて優れているものの、石井氏によれば「現実のプロジェクトにおいては、こうした理想通りにいかないケースも多い」という。そのため同氏は、建前に対する“本音”として、以下の8つのポイントを挙げる。


・インプット/処理/アウトプットを理解する
 冒頭でも説明した通り、CRMシステムは他の業務システムと比べてインプットやアウトプットの定義がファジーであり、そのことがプロジェクト炎上の要因になりやすい。そのため、あらゆるシステムの基本構造である「インプット/処理/アウトプット」をあらかじめきちんと明確化しておくことが重要。


・利用範囲は徹底的に絞る。SaaSに業務を合わせる
 これも既に述べた通り、少なくとも導入初期段階では「なるべく利用範囲や機能を絞り込む」。そして「ぼくのかんがえるさいきょうのCRM」をできるだけ廃して、SaaSの標準機能を最大限活用する。もし既存の業務がSaaSの標準機能と大きく乖離している場合は、SaaSを業務に合わせようとするのではなく、業務をSaaSに合わせることを積極的に検討する。


・業務プロセスで利用する
 システムの利用を現場に定着させるためには、「使え!」と無理やり強制しても効果は期待できない。それより日々の業務プロセスの中にシステムをうまく組み込んで、業務を回していくうちに自然と利用が定着していくような仕掛けを考えるべきだ。


・活用プランと成功の基準を実感できる内容にする
 導入効果を評価する際には、「売上30%増」「リード数50%増」といったKPIを見るだけでは意味がない。そのはるか手前の「会議が楽になった!」「資料作成が楽になった!」といった、現場で容易に体感できる効果を重視すべきだ。


・即効性がないことを周知する(まずは台帳作り)
 CRMの取り組み開始当初は、顧客台帳というデータの“箱”にデータを溜めていくだけなので、当然のことながら目に見える導入効果は期待できない。1〜2年の間こつこつ取り組みを続けた後に、ようやく効果が表れ始めるものなので、即効性は決して期待してはいけない。


・入力の追加はタスク削減と必ずセットで
 先述のように、現場はシステムへの入力作業に積極的に協力したがらないものだ。そこで入力の作業が増える分、その見返りとして既存のタスクを削減・廃止することで現場の協力を得やすくなる。


・アドミンを大切に!(リスペクト)
 Salesforceを現場に定着させるためには、現場部門でシステムの管理を担当する「Salesforceアドミン」と呼ばれるロールが極めて重要になる。このアドミンを大切にすることが極めて重要であり、逆にその育成や待遇を軽視した会社はほぼ必ずSalesforceの定着に失敗する。


・インテグレーションを考える
 CRMシステムは周辺システムと連携することで本来の効力を発揮する。そのため設計段階から周辺システムとの連携や、将来システム規模が拡大していった際に起こり得るシステム連携・データ連携のインタフェースなども考慮した上で、システムを設計することが大事だ。

後編記事「こんな“こじらせSalesforce”は要注意——『失敗事例あるある』と『解決策』を“元、中の人”と実装経験者が本音トーク」を読む

【執筆:吉村哲樹 イベント企画: AnityA(アニティア)】

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