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肥大化したシステムのムダ、4カ月で約半分のスリム化にめど——トヨタシステムズがレガシーシステムをカイゼンできた理由

2021.02.24 DX

 2020年11月6日、一般社団法人日本データマネジメント・コンソーシアム(JDMC)主催の第54回定例セミナー「データ駆動型カイゼンによる既存システムの大幅なスリム化とDXへの道筋」が開催された。

 今回の定例セミナーでは、株式会社トヨタシステムズ(以下、トヨタシステムズ) 製品情報管理本部 設計管理IT部 工程・用品G GM 小野里樹氏と、富士通株式会社(以下、富士通) サービステクノロジー本部 システム技術統括部 鈴木庸介氏の両名をお招きし、両社が共同で行ったトヨタの基幹システム刷新プロジェクトについて紹介が行われた。

●システムの無駄な機能をいかにそぎ落としてスリム化するか?

トヨタシステムズ  製品情報管理本部 設計管理IT部 工程・用品G GM の小野里樹氏(写真提供:トヨタシステムズ)

 小野氏はトヨタにおいて、組み立て型製造業にとって要ともいえる基幹システム「部品表(BOM)」の構築・メンテナンスを長年担当してきた。そんな同氏は以前から、トヨタにおける業務システムの再構築に課題を感じていたという。

 「トヨタ社内では数百ものシステムが稼働していると言われており、それらの老朽化に伴う更改作業に膨大なコストと手間を費やしてきました。仮に1つのシステムのライフサイクルを10年、更改コストを10億円とすると、年間で数百億円ものコストを費やしている計算になり、これを少しでも削減できる方法はないかと模索してきました」(小野氏)

 そこで同氏が辿り着いた結論が、システム開発における「造り過ぎのムダ」の解消だった。

 トヨタは「トヨタ生産方式」「カイゼン(改善)」で広く知られるように、プロセスの徹底的な合理化と無駄の排除によって高い生産性と収益を達成してきた。しかし製品の設計・製造プロセスにおいて徹底されてきた「ムダ取り」も、システム開発においてはまだ取り組む余地があったという。

 「そこで、業務システムの無駄な機能を排除し、全体の規模をスリム化することによって、『システム更改に掛かるコスト』や『更新後の保守費』を削減できるのではないかと考えました。

 まずはシステムのアクセスログなどを調査して、使用頻度の低い機能を洗い出した上でそれらを削除する方法を検討しました。しかし残念ながら、このやり方はうまくいきませんでした」(小野氏)

 IT部門側で削除候補となる機能を洗い出した上で、ユーザー部門に対して機能削除による業務への影響度合いを確認する。ここで合意を取った上で、最終的に削除する機能を確定する——。

 こうした手順を思い描いていたが、実際に試してみたところ、機能の削除によって生じるインパクトをユーザー側では正確に予見できず、「トラブルが怖いので、やっぱり念のため残しておいてほしい」という反応が大勢を占めた。結果的にシステムのスリム化自体もほとんど進まず、構想自体が頓挫しかかってしまったという。

●機能ベースではなく「データ起点」によるスリム化にチャレンジ

 こうして一度は暗礁に乗り上げてしまいそうになったシステムのスリム化プロジェクトだが、小野氏は決してあきらめることはなかった。

 「システム保守費の高騰は社内で以前から問題視されていましたし、業務の変化スピードも年々早くなっていましたから、それに応じてシステムの改善リードタイムも短縮する必要がありました。

 システムのスリム化がこうした課題の解決に有効であることは明白でしたし、何より私自身の諦めがつかなかったので、一度は頓挫しかかった後も粘り強くスリム化の構想を練り続けていました」(小野氏)

 ここで大きな転機が訪れる。これまでは、システムの機能やプロセスに着目してスリム化を検討していたが、思い切って発想を転換し、システムの「データ」に着目してみることにしたのだ。

出典:トヨタシステムズ

 業務の証跡である「データ」を起点にシステムを捉え直すことによって、より確実かつ安全にスリム化を実現できるのではないか……。

 早速同氏は、データ起点によるスリム化の可能性について調査を始めた。そしてほどなくして、自分たちだけでこの新たな発想を実行に移すことの難しさも実感するようになったという。

 「データ起点の方法論の知見や実経験が不足していたため、独力で進めるのはかなりハードルが高いことが分かってきました。そこで、既に高い知見を持っているパートナーと組むことによって、よりスピード感を持ってプロジェクトを進められるのではないかと判断しました」(小野氏)

富士通 サービステクノロジー本部 システム技術統括部の鈴木庸介氏(写真提供:一般社団法人日本データマネジメント・コンソーシアム)

 ここで白羽の矢が立ったのが、「データの見える化アプローチ」という独自のメソドロジーを持ち、これまで数多くのデータ駆動型開発プロジェクトを成功に導いてきた、富士通だった。同社の鈴木氏は、今回の共同プロジェクトの意義について次のように述べる。

 「弊社が提唱する『データの見える化アプローチ』は、システムのデータ領域の問題にフォーカスすることによって、データを利用するアプリケーション、さらには業務が抱える問題もまとめて可視化しようという方法論です。

 これを、トヨタ様がもともとお持ちの『トヨタ生産方式』『カイゼン』と組み合わせることによって、『データ駆動型のカイゼン』とも言うべき課題解決の道が拓けるのではないかと考えました」(鈴木氏)

出典:富士通

●「データモデリング」と「データプロファイリング」によるスリム化

 まずは4カ月間のトライアル期間を設け、システムの一部の範囲を対象に、両社共同でデータ起点のシステムスリム化を行い、その成果を評価してみることにした。ここで取り入れたのが、「データモデリング」と「データプロファイリング」という2つのデータマネジメント手法だった。

出典:トヨタシステムズ

 データモデリングとは、通常はデータベースのデータ構造を新たに設計するための手法のことを指すが、今回、採用されたデータモデリングの手法はこれとは若干、毛色が違っていた。

 「一般的にデータモデリングというと、テーブル関連図や物理ER図などを使って、データベース設計を行う手法を指しますが、今回、私たちが行ったのはこれとは若干異なります。

 新たにデータベースを設計するのではなく、既に稼働しているシステムの画面や帳票といったインタフェースの仕様を基にデータ構造を導き出し、それをデータモデルに落とし込むという作業になります」(鈴木氏)

 既存システムの外部仕様を基に、「データベースの構造」ではなく「業務の構造」をデータモデルとして描き出す。そしてそれを実際のシステムのデータモデルと突き合わせることによって「理想と現実のギャップ」を洗い出し、そこからシステムのムダな部分を抽出する——という方法だ。

 一方の「データプロファイリング」は、現行システムのデータベースの中身をつぶさにチェックすることによって、無駄なデータや不要なデータ、重複しているデータなどを洗い出して、そこから削除すべき機能を導き出すという方法だ。

 一つひとつのデータ項目ごとに、「定義と合致しないデータが入っていないか?」「重複するデータが入っていないか」など、さまざまな切り口から無駄なデータを洗い出した上で、「そのデータはどの機能で使われているのか?」と逆算して、削除対象の機能を抽出する。

 これらベクトルの異なる2つの手法を併用することで、削除対象の機能をより高い精度で特定できるようになった。またユーザー部門に対して機能削除を打診する際にも、説得力を持って説明できるようになったという。

 「『業務証跡であるデータ、それに関連する業務や機能は必要か不要か』という、“ユーザーにとって分かりやすい判断基準”を示すことによって、機能削除のコンセンサスを得られやすくなりました。

 その結果、4カ月の間で45%ものシステム規模の削減に目途をつけることができました。この成果が社内で評価された結果、その後システム全体の刷新プロジェクトが正式に立ち上がることになりました」(小野氏)

●多段階開発における開発対象範囲の見極めにデータモデルを活用

 こうして「システムのスリム化」という当初の目的はほぼ達成できたが、トヨタにおけるデータモデルの活用はそれだけに留まらず、現在さまざまな領域へと広がりを見せつつある。

 その1つが、システム開発における「開発対象範囲の見極め」にデータモデルを活用するという取り組みだ。

 「近年ではユーザー部門における業務の変化スピードがかなり早くなってきているので、私たちもそれにスピード感をもって応えるべく、開発対象の範囲を細かく区切った多段階開発を行う必要があります。

 しかし、その際に開発対象範囲の見極めを誤ってしまうと、他のシステム機能に対して大きな影響を与え、結果的に工数が膨れ上がったり、システム障害を誘発する危険性が出てきてしまいます」(小野氏)

 そこで、前出のデータモデリングとデータプロファイリングの工程を経て作成されたデータモデルを用いて、システムの最適な開発対象範囲の見極めを行うようにしているという。

 具体的には、まずデータモデルの中で他からのリレーションシップが多く集まっているエンティティを「密結合」「切り離しにくいエンティティ」と定義し、逆に少数のリレーションシップしか張られていないエンティティを「疎結合」「切り離しやすいエンティティ」と定義する。

 リレーションが少なければ少ないほど、エンティティ間の依存関係が疎遠なので、互いを切り離すことによって不具合が生じる可能性は少なくなる。逆に、リレーションが多く集まっている箇所で開発対象範囲を切り分けると、不具合発生リスクが高まる可能性がある。

 こうしてデータモデル中の「切り離しやすい箇所」を見定め、うまくエンティティをグループ化することで最適な開発対象範囲を見付けていく。

 次に、実際に開発作業を進めていく上で最適な単位となる「過渡期モデル」を、やはりデータモデルを基に見極めていく。その際には、開発対象外の機能を現行保証するために必要なエンティティのグループを明確化し、それらを同時並行で開発することで開発期間や工数の削減を図っていく。

 「こうして抽出したグループ同士を同時並行で開発することで、一つずつ順番に開発するより開発規模を大幅に圧縮できます。ただし、常に同時開発を行った方がいいというわけではなく、開発の単位や順番を決める際には常にユーザーのニーズや要件が優先されなければなりません」(小野氏)

出典:トヨタシステムズ

●データモデルを基にDXで目指すべき未来像を描き出す

 トヨタではさらに、これまで紹介してきたようないわゆる「守りのIT」のためのデータモデル活用だけではなく、DXやデジタル活用といった「攻めのIT」を実現するための手段としてもデータモデルを積極的に活用している。

 「システムのスリム化によって、これまでシステム更改に費やしていた人手やコストを大幅に削減できました。こうして浮いたリソースを投入して、これからDXをどんどん推進していきますが、ここでもやはりデータモデルが大いに役立つと考えています」(小野氏)

 具体的には、今後トヨタがDXで目指すべき「将来あるべき姿」「ToBe」をより高い解像度で描き出すために、データモデルを活用している。そのための施策の1つとして、データモデルを用いてトヨタの未来像を描くワークショップをプロジェクト関係者で開催している。

 トヨタでは、未来の社会変化シナリオを予想した「未来年表」を作成しているが、ワークショップではこの未来年表に描かれた20年後のトヨタの姿を基に、「今から5年後のトヨタの業務・システムのビジョン」を参加者同士で描いていく。

 ここでは、ただ単にビジョンを提示するだけでなく、「そのビジョンを実現するために必要なデータを明確化すること」にこだわっているという。

 「このワークショップの結果、目指すべき未来へ最短距離で到達するための計画年表を作成できました。この計画年表では、何段階かに分けてToBeへと至るシナリオが提示されていますが、少なくとも第一段階目は現在のデータモデルと直接リンクしているので、ただの『絵に描いた餅』で終わることなく、すぐに具体的な施策に踏み出せるのが大きな特徴です」(小野氏)

 こうした取り組みを通じて、今後は「データマネジメントの手法を駆使してDXへの道を切り拓き、いわゆる『2025年の崖』を乗り越えていきたい」と小野氏は抱負を述べる。

 「振り返ってみれば、当初のシステムスリム化の取り組みも決して平たんな道のりではなく、実際には何度も頓挫しそうになりました。それでもここまでやり通せたのは、自分を信じて決してあきらめることなく、やりたいことを周囲に発信し続けてきたからだと思います。

 声を発し続けていれば、やがては鈴木さんのような仲間が少しずつ増えてきて、徐々に道が拓けてくると思います。ぜひ私たちの取り組みを参考に、少しでも多くの方がデータマネジメントを足掛かりにDXへの道を切り拓いていていただければ幸いです」(小野氏)

【執筆:吉村哲樹】

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