※本記事は沢渡あまね氏の著書「バリューサイクル・マネジメント 新しい時代へアップデートし続ける仕組みの作り方」(技術評論社刊)の一部を編集し、転載しています。
統制型(ピラミッド型)に最適化された人事部門は、総務部門と同様、従業員や準ずるメンバーにすべからく同じ行動をとるよう人事制度や評価制度を最適化してきた。
終身雇用前提のもと、社歴が長い人が優遇される昇進制度、給与制度が根づいている企業も少なくない。従業員のライフステージやキャリアを考慮しない、人事異動や転勤も正当化されている。
人事担当者の入社候補者に対する上から目線な言動やふるまいで、入社候補者をアンチにする企業もいまだに少なくない。「報復人事」のような、陰湿かつ幼稚な慣習を続けている企業もある。会社が個人に対して優勢な時代は終わりつつあるにもかかわらず。
これらがすべて悪と言うつもりはない。その組織において、合理性があるならば続ければいいのである。しかしながら、統制型(ピラミッド型)および終身雇用型に最適化された制度や慣習は、終身雇用の崩壊、少子高齢化、働く人たちの多様化(性別の違い、国籍の違い、仕事に対する向き合い方の違い、キャリア観の違い、働き方の違い、ライフステージの違い、プロフェッショナリティの違いなど)が大きくなるにつれ、合理性を失う。
インターネットによるオープンなコミュニケーションがあたりまえの世の中、面接官の失礼な行動や言動、あまりに理不尽な「報復人事」などの情報は一気に広まり、ブランド毀損を引き起こしかねない。
オープンにコラボレーションできる人材の育成に力を入れる
これからの人事部門は、決められた仕事を従順にこなす人材のみならず、オープンに発想し、オープンにコラボレーションできる人材の育成にも力を入れるべきであろう。
日本マイクロソフトは、部門評価や人事評価の項目に「コラボレーション度」を含めている。「他組織とコラボレーションしたか?」「ノウハウを他者に共有したか?」これらが評価される。それだけ、コラボレーションを経営や組織運営の武器として重視しているのである。
コラボレーションが生まれやすいオフィス環境や、テレワークやワーケーションなどの働き方のオプションの整備も、人事部門の重要なミッションである。堅苦しい職場環境は、堅苦しい人材しか生まない。オフィス環境の改善やバージョンアップは、前述のとおり、総務部門と協力して進める。
中間管理職の意識変革やスキルアップも肝である。部長や課長がボトルネックとなって、メンバーがコラボレーションやチャレンジをできず、モチベーションを下げていく職場もある。中間管理職の期待役割と要件の再定義、およびマインドやスキルの育成も必要であろう。もちろん、中間管理職の評価制度も刷新する。コラボレーションやチャレンジを邪魔する管理職は、降格させる、あるいは退場願うなどドラスティックな変革も必要だ。
ITを駆使して自社ファンを増やす
採用や育成の面において、人事部門は事業部門のサポート役としての役割を果たしてほしい。組織のカルチャーや現場の要件に合うか合わないかわからない人材を採用して、現場に送り込んで「後はよろしく」ではダメだ。
事業部門が必要とする人材の要件定義(言語化)をサポートし、マッチする人材を社内外から探して、事業部門と引き合わせる。事業部門が必要とするスキルを育成する、研修や学習の場を提供する。そのための予算をあてがう。こうして、事業部門の本来価値創出や問題・課題解決をサポートしよう。
入社候補者は、貴重な自社のファンとして接する。上から目線など言語道断。広報部門がどんなにがんばって自社ブランドイメージを上げるための広告宣伝をしても、無礼な面接官の行動や言動1つで台なしになる。入社候補者に無礼なふるまいをする人事担当者や面接官には、厳しい処遇をするべきである。
自社ファンを増やすためには、常日頃からインターネットなどITを活用して自社の情報を発信する必要もあろう。そのためには、広報部門や情報システム部門とのコラボレーションが求められる。
会社説明会や面接も、ITを駆使しておこないたい。最近では、オンラインの会社説明会や面接も普及してきた。入社候補者、面接官ともに、移動時間を浪費したり、交通機関のトラブルなどに左右されることなく、会議室を大量占拠することもなく面接をおこなえるため、入社候補者にも事業部門にも好評だ。場所の制約なく、全国あるいは全世界の優秀な候補者と出会うチャンスが広がるのも大きなメリットだ。
デジタルワーク化できるよう人材をアップデートする
採用活動のオンライン化にとどまらず、会社組織全体のITスキルやITリテラシーを高め、デジタルワークできるよう人材をアップデートすることも、人事部門の重要な役割だ。健全な組織のバリューサイクルを回すためには、デジタルに身を置く、すなわちデジタルワーク化が欠かせない。
デジタルワーク(テレワーク)をうまくこなすために必要なスキルを図にまとめた。
1〜3と8は職位に関わらず組織のメンバー全員に身につけてほしい基本スキル/リテラシー、4〜7は番号が大きいほど管理職やリーダーなどチームを牽引する立場の人に持っておいてほしいスキルである。これらのスキルは、デジタルワークをスムーズにおこなうために役立つのみならず、対面でのコミュニケーションやコラボレーションを効率よくおこなううえでもまちがいなく役に立つ。参考にしてほしい。
働き方そのものをフルリモートワーク化し、地域外の優秀な人材の採用に成功している企業もある。
入社候補者は転居を伴わず、就職や転職ができる。筆者のまわりでも、ここ半年だけで6人、富山、愛知、金沢、浜松など地方都市に住みながら、東京あるいはほかの地方都市の企業にフルリモートワークで転職した人を知っている。このように、デジタルを使いこなして進化する企業は、居住地を問わず優秀な人材を獲得している。場所や時間を固定した働き方しかできない企業との人材獲得力格差は広がる一方だ。
※本記事は沢渡あまね氏の著書「バリューサイクル・マネジメント 新しい時代へアップデートし続ける仕組みの作り方」(技術評論社刊)の一部を編集し、転載しています。