原則4:データは全社的ケイパビリティと認識する


※本記事は、小川康二氏・伊藤洋一氏の著書「DXを成功に導くデータマネジメント データ資産価値向上と問題解決のための実務プロセス75」(翔泳社刊)の一部を編集し、転載しています。

データは情報システム部門がマネジメントする?

 データベースは情報システム部門が構築・維持することから、データベースに関するマネジメントは情報システム部門が行っていました。データベースに関するマネジメントとしては、主にデータベース構築として設計・実装、データベース維持としてパフォーマンスチューニング・データ量のモニタリング・バックアップリカバリ・BCP対策が挙げられます。

 データベースの設計を行うためには、データベースに格納するデータは何か、データをどのように配置するか、データ項目のネーミングはどうするかなど、データに関する業務要件を決める必要があります。データに関する業務要件を整理して、データベースに実装できるように構造化するタスクをデータモデリングと呼びます。

 データモデリングもシステム開発を行ううえで必要であったことから、情報システム部門が作成していました。ただし、プロジェクトで決まったシステム開発の範囲のデータモデリングです。

 データモデリングについては第3部で詳しく述べますが、業務視点で作成した概念モデル、システム開発の都合で作成した論理データモデル、データベースマネジメントシステムの都合で作成した物理データモデルがあり、概念→論理→物理という過程を経てデータベースに実装されます。

 実装されたあとの維持フェーズでは、最低限の人数で最低限のタスクしか行わないのが一般的で、物理データモデルやデータベースのマネジメントのみが行われ、概念データモデルや論理データモデル、データ項目のネーミングなどを維持メンテナンスする活動は行われません。

 このことから、従来のデータマネジメントは、情報システム部門によって、実装に関わる物理的な領域のみで行われてきました。

経営者の意識変化

 従来は情報システム部門が実装に関わる部分のみ、データマネジメントを行っていたため、経営者はデータマネジメントに全く興味関心がありませんでした。

 しかし、現在は違います。データ活用とデータマネジメントはワンセットで推進しないと経営が立ち行かなくなることを経営者は知っています。

 2008年にデータマネジメントが日本に入ってきた当初は、バズワード的に経営者が部下にデータマネジメントの導入を指示していました。しかし、このような試みはほとんど失敗に終わりました。理由は明確で、ビジネス上の成果につなげられなかったからです。

 ところが、近年MAやSFA、AI・BIの導入事例が増え、徐々にデータ活用によるビジネス変革に成功した企業の出現が多くの経営者に危機感を煽るかたちとなりました。

 危機感を煽るのが良いかどうかは別にして、データ活用の必要性がようやく経営者に届くようになったのです。

 現在は、個別業務改善や個別サービス向上のデータ活用だけでは限界があり、組織全体でデータ活用を促進させて、顧客エンゲージメントを高めていくことが経営戦略に必要であると認識されています。そして、組織全体、企業全体でデータ活用を推進するためには、データ活用ができるデータ活用基盤が必要となり、データマネジメントが求められています。今、この瞬間も多くの経営者は、データ活用とデータマネジメントがセットで必要だと本気で考え、行動しています。

データは全社的なケイパビリティ

 現在のデータマネジメントは、経営を左右する重要なケイパビリティです。

 データは、財務・人事・商品開発・営業・マーケティング・ITと同じように経営活動で滞りなく使わなければなりません。

 人事で例えるなら、優秀な人を採用して、適材適所に各業務部門へ配属させて、実践の中で能力を発揮させて、育てていくのと同じように、データマネジメントにおいても、ビジネス施策に使えそうなデータを発掘し、各部門、各ケイパビリティにデータをスムーズに提供できるように高品質なデータを配置し、仮説構築を繰り返しながらビジネス施策に役立つようにデータを育てていく必要があります(図2.7.1)。

コラム:データマネジメント導入の失敗

 データマネジメントが日本国内に広がり始めた頃、経営者やCIO・情報システム部門長はどこも口を揃えて「我が社もデータマネジメントを導入せよ」と号令をかけ、推進リーダーは右往左往しながら推進してきました。

 しかし、ビジネス施策がない中でのデータマネジメントの推進は非常に難しく、下手にマスター統合やDWH/BIを構築するわけにもいきません。とりあえず、比較的推進がしやすい「データ品質向上」という施策を定め、データ項目に対する体制とチェックルールだけ設けて、システム開発時にレビュに参加する活動を行っていました。

 残念ながら、結果は散々でした。ビジネスサイドに何のメリットがあるのかわからない状態で、レビュで指摘ばかりしていたので、衝突してしまい、データ品質向上という施策は実現できませんでした。最終的には数年後に解散するという残念な結果に終わりました。やはり、ビジネス施策なくしてデータマネジメントの成功はないといえるでしょう。

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